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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)11298号 判決 1997年1月24日

東京都立川市一番町四丁目三六番地四

原告

株式会社トルカー

右代表者代表取締役

下田忍

右訴訟代理人弁護士

井口寛二

右訴訟復代理人弁護士

瀬川健二

右輔佐人弁理士

齋藤晴男

愛知県西加茂郡三好町大字三好字油田二四番地

被告

東京精密測器株式会社

右代表者代表取締役

高草豊

右訴訟代理人弁護士

田倉整

會田恒司

右輔佐人弁理士

今野耕哉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し金一億六五〇〇万円及びこれに対する平成元年六月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第一  請求原因

一  当事者

原告は、揺動形アクチュエータの製造、販売を業とする株式会社であり、被告は、精密機械等の製造、販売を業とする株式会社である。

二  原告の特許権

1  第一特許

(一) 原告は、左記の特許権(以下、「第一特許」といい、その特許発明を「第一特許発明」という。)を有していたが、昭和六二年八月二四日、その一部を訴外三共商事株式会社に譲渡し、昭和六三年六月二七日、同社から右持分の再譲渡を受け、平成四年七月二〇日、全部を訴外豊田油気株式会社に譲渡した。

発明の名称 揺動形アクチュエータの製造方法

出願日 昭和五四年一二月二七日

出願公告日 昭和五八年七月一九日

出願公告番号 特公昭五八-三三四〇五号

登録日 昭和五九年四月五日

特許番号 第一二〇〇〇八三号

(二) 特許請求の範囲

第一特許の特許請求の範囲の記載は本判決添付の特公昭五八-三三四〇五号の特許公報写しの該当欄記載のとおりである。

(三) 第一特許発明の構成要件は次のとおりである。

(1) 軸受外径がシリンダーの内径より若干大きめのラジアル軸受を、シリンダーにローターを嵌挿後シリンダーの両側から打ち込み、

(2) その内輪に、ローターを嵌め込んでローターを支承することを特徴とする揺動形アクチュエータの製造方法。

(なお、特許請求の範囲の記載の「シリンダーのローターを」は「シリンダーにローターを」の誤記である。)

2  第二特許

(一) 原告は、左記の特許権(以下、「第二特許」といい、その特許発明を「第二特許発明」という。)を有していたが、平成四年七月二〇日、訴外豊田油気株式会社に譲渡した。

発明の名称 揺動形アクチュエータにおけるローターの製造方法

出願日 昭和五四年一二月二七日

出願公告日 昭和五八年五月三〇日

出願公告番号 特公昭五八-二五八八二号

登録日 昭和六三年九月二八日

特許番号 第一四五八六七七号

(二) 特許請求の範囲

第二特許の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許審判請求公告公報の写し中の訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)該当欄記載のとおりである。

(三) 第二特許発明の構成要件は次のとおりである。

(1) 円柱体を、その左右に円柱と同径ないしほぼ同径のフランジを残して研削し、

(2) フランジの外側にフランジより小径の嵌装体を残して更に研削してローターシャフトを形成するとともに、

(3) 外径が前記フランジの外径よりも若干大きく、内径が前記ローターシャフトと同径の円筒の一部を切り取ってベーンを形成し、

(4) このベーンをフランジ間に嵌装固定した後研削してベーンとフランジの径を同一にすることを特徴とする揺動形アクチュエータにおけるローターの製造方法。

三  被告の行為

1  被告は、遅くとも昭和五八年八月以降、別紙被告方法目録(二)記載の方法(以下、「被告第二方法」という。)でローターを製造し、該ローターを用いて別紙目録(一)記載の方法(以下、「被告第一方法」という。)で揺動形トルクアクチュエータ(ただし、サーボ弁付二軸揺動形トルクアクチュエータ。以下、「被告製品」という。)を、平成元年六月二八日までに少なくとも一〇〇〇台以上(うち昭和六〇年五月二七日までに五〇〇台以上)製造し、これを訴外ホンダエンジニアリング株式会社(以下「ホンダエンジニアリング」という。)に販売した。

2  被告第一方法について

(一) 被告は、被告製品の製造方法として被告第一方法を用いていることを否認して、シリンダーを加熱してその内径を大きくしてローターを挿入する方法を用いていると主張する。

しかし、もともとシリンダーはその製造にあたり精度を出すため精密に研磨するとともに、残留圧力を除去するため調質処理をするものであるから、改めてシリンダーを加熱してこれらのことを無駄にすることは技術常識上考えられない。

また、被告製品のシリンダーは一六○ミリメートルの長さを有し芯金挿入穴、オイル通路及び雌ネジ穴等が形成され全体が均一な厚さではないから、加熱された際、均一に膨張、収縮するとは考えられず、収縮後、シリンダー内は歪みが生じて真円でなくなるため、シリンダーとローターとの間に均一の間隙が保持できなくなる。加熱によるシリンダーの内径の増加量を〇・〇五〇六ミリメートルとした場合、シリンダーの内径はラジアル軸受外輪の外径より僅かに小さく仕上げてあるから、挿入に際し、加熱したシリンダーの内壁面とラジアル軸受外輪との隙間は、〇・〇五〇六ミリメートルより小さくなるが、このように極めて僅かな隙間を保持して、ラジアル軸受外輪をシリンダーの内壁に接触させることなく一六〇ミリメートル忘の距離ローターシャフトを移動させることは困難である。

(二) シリンダーにローターを組み込む方法としては、ローターの外径の方がシリンダーの内径より大きいものである以上、第一特許発明の実施である被告第一方法か、被告が主張するシリンダーを加熱してその内径をより大、きくする方法のいずれかしかない。

しかし、被告が主張する製造方法には、前記のとおり技術的困難性があり、加熱及び冷却工程に多くの時間と手間がかかり、かつ、加熱のための温度管理等の余分な作業を伴うので第一特許発明による製造方法と比較して採算が採れる方法とはいえない。

しかも、被告製品を製造していた株式会社ダイヤの製造責任者は、原告の元従業員であって、第一特許発明がシリンダーとローターの間隙保持のために最も有効な、経済的にも優れた製造方法であることを知悉しているものである。

被告が主張するシリンダーを加熱してその内径を大きくする製造方法の実施が物理的に不可能というわけではないとしても、右の諸事実からすると、被告が、被告第一方法を用いて、シリンダーにローターを組み込む製造方法を実施していたことは明らかである。

(三)(1) 被告第一方法を用いてローターをシリンダーにはめ込んだ場合、シリンダーにローターを押し入れた後、シリンダーの両端よりベアリングを打ち込み押し入れるため、シリンダーの内側のベアリングが打ち込まれながら通過した部分及びベアリングが最終的に固定された部分に、打痕として、円周に対して垂直方向の傷(縦傷)が生じて残る。

被告が製造、販売した揺動形アクチュエータ(検甲第三号証)のシリンダーには、右の被告第一方法で製造した場合に特有の打ち込みに伴う打痕が認められる。

したがって被告が被告第一方法を用いていたことは明らかというべきである。

なお、本件において、被告製品(検甲第三号証)を対象として、鑑定人藤木栄によりシリンダーの内側部における軸受挿入方向の傷の有無等について鑑定がされているが、同鑑定人は、右に述べた特有の傷の生成箇所に注意を払わず全体を漠然と観察して鑑定意見を出している。したがって、被告第一方法を使用して揺動形アクチュエータを製造していたことを明らかにするための鑑定としては右鑑定は無意味であって、その鑑定結果は採用すべきではない。

(2) 本件では、平成二年一二月六日、訴外株式会社ダイヤエンジニアリングにおいて、被告製品のシリンダーを加熱してローターを挿入する製造方法の検証が実施されているが、シリンダーを加熱すれば、熱膨張によりローターが挿入できるようになるのは当然であるから、この事実自体は検証結果として意味がない。

被告が主張するようなシリンダーを予め加熱するという製造方法を用いた場合、シリンダーに歪みが生じてシリンダー内壁とローターとの間の間隙保持が十分達成されず、連続運転するうちにシリンダー内壁とローターとが接触したり、過剰のオイルリークが生じて効率が著しく低下するといった異常事態が必然的に生じてくることが考えられる。

事実、検証の際に製造した揺動形アクチュエータは、製品ごとにオイルリーク量にばらつきがみられたのであり、右の製造方法によって製品が実用に耐えられるものであるか否かを明らかにするためには、負荷テストをあわせて実施することが不可欠であるといわなければならない。

該テストを伴わない検証結果に基づいて被告が被告主張のようにシリンダーを予め加熱してローターを挿入する製造方法を用いていると認めることはできない。

3  被告第二方法について

(一)被告は、被告が昭和六二年ころに訴外川口エンジニアリング株式会社(以下、「川口エンジニアリング」という。)に製造依頼した約二〇台の揺動形アクチュエータに用いたローター以外の製造方法について「外径が前記フランジと同径(ただし、公差の範囲での誤差はある。)であり、内径が前記ローターシャフトと同径の円筒の一部を切り取ってベーンを形成」するものであるとして、被告第二方法を一部否認する。

しかし、ベーンをフランジに嵌装した後、ベーンとフランジの双方を研削するならば、ベーンとフランジの径に被告のいう「公差」以上の差があっても右研削によって是正されることになるから、その研削前にベーンとフランジを同径にしておく技術的合理性は全くない。被告は、 「公差」という概念を持ち出しているが、公差は普通最終仕上げ寸法についていうものであって、公差を持ち出しているからには、右ベーンとフランジの径合わせ作業はかなりの時間と熟練を伴う労力が費やされているはずである。それにもかかわらず、その後にベーンとフランジを研削するというのは、その前にしたベーンとフランジの径合わせ作業に費やした時間と労力を無駄にすることになる。このように製造効率が悪く、コスト的にも不利な方法をあえて行うことは技術常識上考えられない。

第二特許発明は、被告が行っていると主張する製造方法におけるベーンとフランジの外径の寸法合わせ作業が難しく熟練を要することから、より簡単な方法として考え出されたものであって、第二特許発明の製造方法が、効率よくコスト的にも有利であることは、当業者であれば理解できることである。

被告は、当初、被告第二方法を用いていたのであり、第二特許発明を熟知していたのであるから、あえて製造方法を変更して、不合理な製造方法を採用する理由がない。

(二) また、被告の主張、立証を前提としても、被告のローターの製造方法は被告第二方法であるというべきである。

すなわち、被告が提出した最終段階における製作図(乙第三二号証)によると、最終段階におけるフランジ及びベーンの外径は、いずれも一一〇マイナス〇・〇四〇から〇・〇四五ミリメートルの間ということであるから、フランジの外径とベーンの外径との差は、最大でもわずか〇・〇〇五ミリメートルである。

これに対して、それ以前の段階の製作図(乙第二七号証ないし第二九号証)によると、製造開始時においては、フランジ及びベーンの外径を、いずれも一一〇・三プラスマイナス〇・一ミリメートルにするというのであるから、フランジの外径とベーンの外径との差は、最大で〇・二ミリメートルとなる。この差は、製造開始時の寸法差の許容値の四〇倍であるから、これをもって「同径」ということはできない。また、その寸法差の中には当然、ベーンの外径がフランジの外径よりも大となる場合があり、その場合、ベーンの外径がフランジの外径よりも若干大きい場合ということができる。

被告は、右の寸法差の許容値を公差であるとしているが、「公差」とは、「規定された許容最大値と規定された許容最小値との差」をいい普通最終仕上げ寸法について用いられ、仕上寸法については必ず設定されるものであるから、第二特許発明において同径という場合にも、当然公差があることが前提である。

被告が「公差」なる概念を持ち出しているのは、公差というものを理解していないか、あるいは、それによって意図的に焦点をぼかし、第二特許発明の技術的範囲を形式に免れようとしているかのいずれかと言わざるを得ない。

四  対比

1  被告第一方法の構成が、第一特許の構成要件を充足することは明らかである。

2  被告第二方法は第二特許発明の構成要件をすべて充足する。

(一) 構成要件(1)について

後記(四)で述べるとおり、第二特許発明は、最終工程においてベーンとともに、若干ではあるが、フランジをも研削することをその技術的思想としているものである。したがって、第二特許発明においては、フランジの径は当初は仕上寸法より若干大きくなっている(換言すれば、「研削しろ」が設けてある。)ことが当然予定されている。このことは、当該研削技術分野においては当業者にとって常識となっている事項であって、明細書に記載するまでもないことである。

円柱体を、その左右に円柱と同径ないしほぼ同径で「所定寸法よりやや大きい」フランジを残して研削する被告第二方法は、構成要件(1)を充足する。

(二) 構成要件(2)について

被告第二方法が、構成要件(2)を充足することは明らかである。

(三) 構成要件(3)について

(1) 被告第二方法が、構成要件(3)を充足することは文言の対比上明らかである。

(2) 被告は、被告が昭和六二年ころに川口エンジニアリングに製造依頼した約二〇台のアクチュエータに用いたローターの製造方法以外について「外径が前記フランジと同径(ただし、公差の範囲での誤差はある。)であり、内径が前記ローターシャフトと同径の円筒の一部を切り取ってベーンを形成」するものであるとして、被告第二方法を否認しているが、右被告の主張、立証を前提としても、その方法は構成要件(3)を充足するものである。

すなわち、前記三の3で述べたとおり、被告が提出した製作図を前提とした場合、被告は、フランジの外径とベーンの外径との寸法差について、製造開始時において、最終段階のそれに比較して四〇倍もの寸法差を許容していることが認められる。

これが、到底、同径といえないことは前記のとおりであり、この場合において、ベーンの径がフランジの外径より大となる場合が含まれていることも前記のとおり明らかであって、その場合の被告のローター製造方法は、構成要件(3)を充足する。

(四) 構成要件(4)について

(1) 構成要件(4)は、ベーンとフランジの双方を研削対象として含んでいるものと解すべきである。

構成要件(4)は、文言上、右の点が明らかではないが、特許請求の範囲の記載は、当業者の知識を前提に解釈されなければならないのであり、当業者にとってベーンを研削するに際してフランジが研削されることが不可避であることは明らかである。

すなわち、ベーンとフランジの最終仕上研削は、ベーン及びフランジと反対方向に回転しローターシャフトの軸方向に移動する円盤状砥石によって行われるが、砥石はベーンとフランジに跨って移動するから、砥石は研削の際、先ずベーンと接触してこれを研削し、その研削が進むことによつて砥石はベーンとフランジの双方に接触して双方の研削を行うことになる。この方法においてベーンのみを研削することはできない。すなわち、砥石は側面及び周面に人工ダイヤモンド等の砥粒を結合材によって固定したものであって、その角部をベーンとフランジの境界において止めることは出来ず(角部は厳密には丸みを帯びていて直角ではない。)、ベーンとフランジとに跨ることなくベーンの端部を研削することはできない。

ベーンだけを研削対象とするならば、そのための特別の方法が開示されるべきであるが、本件訂正明細書にはそれに関する記載はない。被告はあたかもそのような方法が存するかに主張するが、実際にはそのような方法は行われておらず、また、そのような方法は存しない。

第二特許発明において、構成要件(3)のとおりフランジの径よりもベーンの径を大きく設定することにしたのは、研削箇所をできるだけ少なくするため、及び作業性を向上させるためである。右事実は当業者にとって常識となっている事項である。

本件訂正明細書には、「ベーン6をフランジ2、2間に嵌装固定すると、ベーン6がフランジ2、2より径の差分はみ出るから、その部分を研削することによってベーン6とフランジ2、2とを簡単且つ確実に同径にすることができる」(本件訂正明細書二頁左欄末行から右欄四行)との効果に関する記載があるが、右記載は「その部分のみを研削することからベーンとフランジを簡単且つ確実に同径にすることができる効果がある」と記載しているわけではないから、ベーンのみを研削することが要件であるとする被告主張の解釈の根拠となるものではない。

第二特許は、その特許請求の範囲を減縮する訂正がされたものであるが、研削の対象に関する特許請求の範囲の記載は、訂正前後で変化はないから、研削対象が従前はベーンとフランジであったものがベーンのみに限定されるようになったと解する根拠とはならない。

また、ベーンとフランジの双方を研削する製造方法が、公知技術であったものとも認められないから、そのような公知技術があるために第二特許が訂正されたものではない。

(2) これに対し、被告第二方法は、ベーンとフランジを研削対象とするものであるが、これは研削の状態を詳細に表現したにすぎない。構成要件(4)の趣旨は右のとおりであるから、被告第二方法は構成要件(4)を充足する。

3  したがって、被告第二方法により揺動形アクチュエータのローターを製造することは第二特許発明の技術的範囲に属し、また右ローターを用いて被告第一方法により揺動形アクチュエータを製造し販売することは第一特許発明の技術的範囲に属する。

五  損害

被告は、ホンダエンジニアリングに被告製品を販売するにあたり、原告にその量産を要請しながら、その後契約を解除したものであるから、被告がホンダエンジニアリングに対して販売した台数分の販売機会の喪失が原告の損害となる。

原告は、過去に被告に対し、右揺動形アクチュエータを一台五五万円、利益率三〇パーセントで販売したことがあるから、被告もホンダエンジニアリングに販売することにより同様の利益を得たものである。

したがって前記三記載の被告の行為により被った原告の損害は、左記の計算式のとおり一億六五〇〇万円である。

五五万円×三〇パーセント×一〇〇〇台=一億六五〇〇万円

六  結語

よって原告は被告に対し、選択的に第一特許、又は第二特許の侵害による損害賠償として金一億六五〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成元年六月二九日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める。

第二  請求原因に対する認否

一  請求原因一は認める。

二  請求原因二は認める。

三  請求原因三の事実のうち、被告が、ホンダエンジニアリングに、揺動形アクチュエータを、一〇〇〇台以上販売した事実は認める。

被告方法の主張についての認否は次のとおりである。

1  被告第一方法について

被告が、被告第一方法を用いて揺動形アクチュエータを製造したとの主張は否認する。被告は、揺動形アクチュエータの製造に際し、シリンダーを予め加熱することによって僅かに膨張させ、放冷収縮前に、ローターシャフトに軸受を配設し組み立てたものをシリンダー内に挿入する製造方法を用いていた。原告が主張する被告第一方法のようなラジアル軸受をシリンダーの両側から打ち込む製造方法を用いていない。

右の事実は、被告が主張するとおりシリンダーを加熱する方法によりローターがスムーズにシリンダー内に挿入できたという検証結果、被告製品(検甲第三号証)のシリンダーに原告がいうような打痕がなかったという鑑定結果からも明らかである。

2  被告第二方法について

被告が昭和六二年ころに川口エンジニアリングに製造依頼した約二〇台の揺動形アクチュエータに用いたローターの製造方法が被告第二方法であることは認める。

その余のローターの製造方法については、被告第二方法のうちベーンを切り取る円筒の「外径が前記フランジよりも若干大きく」との点を否認し、その余の点は認める。外径は前記フランジの外径と同径である(ただし、公差の範囲での誤差はある。)。

なお、川口エンジニアリングに製造依頼したもの及びその余のものを含めて、被告第二方法のうち「内径が前記ローターシャフトと同径」であるとの点は、正確には公差の範囲での誤差がある。ここにいう「公差」とは、ある部位を加工するためにはそれに指示された寸法に対して許される上下二つの寸法差(上及び下の寸法許容差)を定めるが、この両限の間隔をいい、これはその部位の寸法のばらつきの許容範囲であることから寸法精度を表すものである。

四  請求原因四について

1  同1の主張は否認する。

被告が用いている揺動形アクチュエータの製造方法が、被告第一方法と全く異なるのは前述のとおりである。

2  同2の主張について

(一) 被告第二方法が、第二特許発明の構成要件(1)、(2)を充足すること、被告が、昭和六二年ころ、川口エンジニアリングに製造依頼していた約二〇台の揺動形アクチュエータに用いていた被告第二方法が構成要件(3)を充足することは認めるが、右約二〇台に用いていた被告第二方法が構成要件(4)を充足することは否認する。

被告が、実施していたその余の揺動形アクチュエータのローターの製造方法が構成要件(3)、(4)を充足することは否認する。

(二) 構成要件(3)について

被告が川口エンジニアリングに製造依頼した以外のローターの製造方法は、外径がフランジの外径と同一で、内径がローターシャフトと同径の円筒の一部を切り取ってベーンを形成している。

被告の右製造方法においても、円筒の外径がフランジの外径と全く同一とならずフランジの外径よりも若干大きくなったり若干小さくなったりすることはあり得るが、これは公差の範囲内における製造工程中の誤差にすぎない。

被告は、外径がフランジの外径と同一になるように円筒を製造しているのであり、これは第二特許の出願前に公知であった雑誌(乙第一七号証ないし乙第一九号証)に掲載されている「円筒状の素材の一部を切り取って扇形部材に切断」する方法あるいは考案の名称を「トルクアクチュエーター」と称する考案(実公昭五〇-三八七一五号、乙第六号証)の実用新案公報に示された「予め両フランジの高さ及び両者の間隔に合わせてベーンを形成しておく」方法の実施にすぎない。そもそも何の誤差もなく円筒の外径をフランジの外径と全く同一の径に製造することは不可能に近い。

したがって、被告のローター製造方法により生じるような誤差をもって、本件特許発明にいう「円筒の外径がフランジの外径よりも若干大きく」との要件を充足するものとはいえない。

(三) 構成要件(4)について

構成要件(4)は研削の対象をベーンのみであることを明らかにしていると解すべきである。これに対し、被告が使用していた揺動形アクチュエータのローターの製造方法は、ベーンとフランジの双方を研削対象とするものであるから構成要件(4)を充足しない。

すなわち、特許請求の範囲には「ベーンをフランジ間に嵌装固定した後研削して」と記載され、研削の対象は「ベーン」のみに限定されていることが明記されている。

そして本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、「このようにして製造したベーン6をフランジ2、2間に嵌装固定すると、ベーン6がフランジ2、2より径の差分はみ出るから、その部分を研削することによってベーン6とフランジ2、2とを簡単且つ確実に同径にすることができる。」(訂正明細書二頁左欄末行から右欄四行目)と記載され、研削の対象がフランジまり径の差分はみ出たベーン部分のみであり、ベーンのみが研削の対象とされているからベーンとフランジを簡単かつ確実に同径にできる旨が記載されている。

これに対し、ベーンとフランジの双方を研削する被告の製造方法は本件出願前に公知である考案の名称を「トルク・アクチュエーター」と称する考案(実公昭四八-三四四七五号、乙第二六号証)の実用新案公報に示された「フランジ間にベーンを固定し、その外周を研磨する」製造方法の実施にすぎない。

第二特許発明がフランジとベーンの双方を研削するものを含むならば、従来技術に比べて「ベーンとフランジを簡単且つ確実に同径にすることができる」という効果を奏することはできない。

原告は、ベーンのみを研削することは不可能である旨主張するが、円筒研削盤で研削するに当たっては砥石がベーンの部分のみを移動するようにしてベーンのみを研削することは可能である。そのような面一にするための手段として研削加工の技術に携わる者が通常採らない方法を用いベーンとフランジとを簡単かつ確実に同径にすることができるという効果があるとしたことによって第二特許発明の特許性が認められたものであり、これに反する主張は許されない。

五  請求原因五について

被告が、昭和五八年三月、原告から揺動形アクチュエータを三台購入した事実は認め、その購入価格は否認し、その利益率の主張は知らない。

その余の主張は争う。

なお、原告は、第一特許又は第二特許の侵害による損害賠償請求権を選択的に行使しているが、二つの特許権のうちの一つの特許権を侵害する場合の損害額は、二つの特許権をいずれも侵害する場合の損害額よりも少額となるべきである。

六  請求原因六は争う。

第三  抗弁

原告は、本件の訴状を昭和六〇年五月二七日提出し、本件各特許の侵害を理由とする損賠償として四五〇〇万円を請求していたが、平成元年六月二八日、本件の第一四回準備手続において、同日付け準備書面を提出して、本件各特許の侵害を理由とする損害賠償の請求額を一億六五〇〇万円に拡張した。

原告が、本件訴状を提出した昭和六〇年五月二七日以前に損害を被っていたとしても、不法行為に基づく損害賠償請求権について四五〇〇万円を越える部分は時効により消滅している。

また、右訴状提出の翌日から、請求額を拡張した平成元年六月二八日の三年前の日の間に原告が損害を被ったとしても、右期間の不法行為に基づく損害賠償請求権については、同じく時効により消滅している。

被告は、本件の第一五回口頭弁論期日において、右各消滅時効を援用した。

第四  抗弁に対する認否

第二文及び第三文の主張は争う。

第五  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一  請求原因一、二は当事者間に争いがない。

第二  請求原因三(被告の行為)について

一  請求原因三の事実のうち、被告が、ホンダエンジニアリングに、揺動形アクチュエータを、一〇〇〇台以上販売した事実は当事者間に争いがない。

二  被告第一方法について

被告が、被告第一方法を用いて揺動形アクチュエータを製造していたことを認めるに足りる証拠はない。

原告は、被告第一方法を用いた場合、シリンダー内に打ち込みに伴う打痕が生じ、被告が主張する予めシリンダーを加熱してローターを挿入する製造方法によった場合そのような傷は生じないから、傷の生成状況によって製造方法が推認できると主張し、甲第三四号証(第二特許の発明者である原告代表者の陳述書)には、右に沿った趣旨及び検甲第三号証のシリンダーの内側には円周に対し垂直方向の傷がついていることから検甲第三号証のアクチュエータが打込嵌によったことが明らかである旨の記載がある。

一九八六年製造の被告製の揺動形アクチュエータのシリンダーを軸方向に切断したものであることが当事者間に争いがない検甲第三号証及び弁論の全趣旨により原告製造の揺動形アクチュエータであると認められる検甲第四号証のシリンダーを軸方向に切断したものによれば、それぞれのシリンダー内壁を肉眼で観察した限りでは、両者の内壁の傷の状況に顕著な相違を認めることはできない。

しかし、鑑定人藤木栄の鑑定の結果によれば、右検甲第三号証及び検甲第四号証のシリンダーの内側部の傷の状況から、それぞれがどのような製造方法の過程で生じたものか及び両者の傷のみを対比してその生成原因を同一製造方法と判断することは困難であることが認められ、前記甲第三四号証中の記載はたやすく信用できず、結局、シリンダー内面の傷の状況から被告製品が被告第一方法によって製造されているものと認めることはできない。

また原告は、被告主張のアクチュエータの製造方法には技術上の諸問題があり実施できるものではないことから、被告が被告第一方法を使用していたことが認められる旨主張するが、訴外株式会社ダイヤエンジニアリングにおける検証の結果によれば、加熱したシリンダーを工場内の床に設置された位置決め治具の上に設置し、圧縮空気を吹き付けた後、ロータ挿入部分に油を少量注入し、両手で保持したロータを上から真っ直ぐ落下させて挿入すると、六回ともほとんど抵抗なくシリンダーにロータが挿入出来たこと、右により製造した揺動形アクチュエータの性能測定結果によれば、対象の六台のアクチュエータのうち一台がポジションⅠで毎分二七五立方センチメートルの、ポジションⅡで毎分一七五立方センチメートルのオイルリークがみられたが、他の五台のオイルリークはポジションⅠで毎分五〇ないし九五立方センチメートル、ポジションⅡで毎分七五立方センチメートルのものが四台、毎分一四五立方センチメートルのものが一台であったことが認められ、弁論の全趣旨(特に原告の第一三回準備書面にあらわれたところ)によれば、その程度のオイルリークであれば十分実用に耐えられものであることが認められる。したがって、被告が主張する製造方法は十分実施可能な製造方法であると認められ、現に被告はその方法を実施していたことがうかがわれるから、右製造方法の実施は技術上の諸問題があることを前提として、被告は被告第一方法で製造していた旨の原告の主張は失当である。

第一特許発明の内容を熟知している原告の元従業員が被告製品の製造に関与している事実があったとしても、そのことのみから被告が被告第一方法を使用していることを推認することはできない。

三  被告第二方法について

1  被告が昭和六二年ころに川口エンジニアリングに製造依頼した約二〇台の揺動形アクチュエータに用いたローターの製造方法が被告第二方法であることは当事者間に争いがない。

2(一)  右約二〇台以外のローターの製造方法については、原告主張の被告第二方法のうち、ベーンを切り取る円筒の「外径が前記フランジよりも若干大きく」との点以外の部分は当事者間に争いがない。

(二)  被告は、右ベーンを切り取る円筒の「外径は前記フランジの外径と同径である(ただし、公差の範囲での誤差はある。)。」である旨主張する。

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二七号証ないし第二九号証によれば、被告製品の製作図には、第一次加工においてフランジ及びベーンの外径をいずれも一一〇・三プラスマイナス〇・一ミリメートルにするとの指示があることが認められ、右記載の趣旨は、フランジ、及びベーンとも、その外径を同じ一一〇・三ミリメートルに研削することを基準とするが、いずれもプラスマイナス〇・一ミリメートルの製造誤差を許容している趣旨と解される。

すると被告が主張する公差の範囲で誤差のある同径とは、結局、右の製造誤差の許容による差異をいっているものと解されるから、その場合においては計算上ベーンの外径がフランジの外径より〇・二ミリメートル大となる場合が含まれていることになる。

原告は、右の点から、被告の右立証を前提としても外径がフランジの外径よりも若干大きい場合であるとしているが、絶対的な意味での同径が技術上ほとんどあり得ないことと考えられることからすると、どの程度の差異をもって「若干大きく」とするか「同径」というかは当該特許の技術分野に応じて判断すべき事項というべきである。したがって、対比の対象物を特定し、対比をより正確に行うためには、右否認部分の表現は、前掲乙第二七号証ないし第二九号証により立証されたところにしたがって「外径が前記フランジの外径と同径(ただし、プラスマイナス〇・一ミリメートルの範囲で製造誤差がある。)であり、」と特定するのが相当である。

(三)  なお証人早船保夫の証言中には、川口エンジニアリングが被告の依頼により揺動形アクチュエータを製造した時期が、昭和五九、六〇年ころであるとする趣旨の部分があるが、右証言内容は極めて曖昧であって、右証言が平成四年になってされたことも考慮すると、被告が本件において自白している約二〇台の製造を誤って証言した可能性が多分にあり、右証言によつて、前記争いのない事実以上に、被告が被告第二方法を使用していた事実を認定することはできない。

(四)  したがって、被告が揺動形アクチュエータに用いていたローターの製造方法のうち、争いのある製造方法については、前記認定のとおりとして、第二特許と対比するのが相当である。

第三  請求原因四(対比)について

一  第一特許発明と被告第一方法の対比

被告が用いていた揺動形アクチュエータの製造方法が、被告第一方法であると認めるに足りる証拠がないことは前示のとおりであるから、その余の判断をするまでもなく、被告が第一特許を侵害する揺動形アクチュエータの製造方法を実施していたとの主張には理由がない。

二  第二特許発明と被告第二方法の対比

1  被告が実施していたローター製造方法が構成要件(1)、(2)を充足すること、昭和六二年ころ被告が川口エンジニアリングに製造依頼した約二〇台の揺動形アクチュエータの製造方法が構成要件(3)を充足することは当事者間に争いがない。

2  構成要件(4)について

(一) 第二特許の特許請求の範囲には「このベーンをフランジ間に嵌装固定した後研削してベーンとフランジの径を同一にする」と記載されており、この記載自体は、「ベーンを」を受ける語句は「・・・嵌装固定した後研削して」まで、即ち、ベーンを嵌装固定した後そのベーンを研削してという意味であると解することができるが、他方、「ベーンを」を受ける語句は、「・・・嵌装固定した後」までであり、「研削して」は自動詞的に用いられている、あるいは対象が構文上明示されていない、即ち、ベーンを嵌装固定した後、必要な箇所を研削してと解する余地もあり、その意義を一義的に解することはできない。

これに対し、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の欄には、第二特許発明一般の説明として、「このようにして製造したベーン6をフランジ2、2間に嵌装固定すると、ベーン6がフランジ2、2より径の差分はみ出るから、その部分を研削することによってベーン6とフランジ2、2とを簡単且つ確実に同径にすることができる。」(本件訂正明細書二頁左欄末行から右欄四行目)との記載がある。

右記載は、ベーンの外径がフランジの外径より大きい分だけベーンがはみ出るから、そのベーンがはみ出した部分を研削してベーンとフランジを同径にすることによってベーンとフランジとを簡単かつ確実に同径にできるという効果を奏することができるとの意味であることは明らかである。右記載をベーンとフランジを研削する場合も含んでいると解することはできないし、訂正明細書の発明の詳細な説明の欄の他の箇所又は図面にベーンとともにフランジを研削することが開示されていることも認められない。

よって、構成要件(4)における研削の対象はベーンのみであると解するのが相当である。

原告は、ベーンを研削するに際してフランジも研削されることは技術的に不可避であることが当業者にとって明らかであり、この当業者の知識を前提に特許請求の範囲を解釈すれば、ベーンとフランジの双方が研削する対象に含まれていると解するべきである旨主張し、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第四号証には右主張に沿う記載がある。

しかし、ベーンとフランジを同径にする手段として、フランジの外径よりも若干大きい外径のベーンをフランジの間に嵌装固定し、ベーンがフランジより径の差分はみ出すからその差の分ベーンを研削するという技術と、フランジの間にベーンを嵌装固定し両者が面一になるように両者を研削するという技術とは、その考え方が異なることは明白であるところ、第二特許発明は前者を要件としたものであることは、訂正明細書の記載から明らかである。

通常用いられる円盤状砥石により研削する場合、砥石の移動がフランジに及んでフランジも研削し、研削対象をベーンのみに限定することが不可能であるとしても、第二特許発明は研削手段を限定していないから、ベーンのみの研削が可能な研削手段であれば、その手段の如何を問わないのであり、特定の研削手段のみの使用を前提とする原告の主張は採用できない。

(二) これに対し、被告第二方法は、いずれも「ベーンをフランジ間に嵌装固定し、双方を研削して双方の径を同一にする」ものであるから、構成要件(4)を充足するものではない。

3  したがってその余の点について検討するまでもなく、被告第二方法は、第二特許発明の技術的範囲に属しないから、被告が第二特許を侵害したものとは認められない。

第四  結論

以上によれば原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 髙部真規子 裁判官 森崎英二)

被告方法目録

(一) 被告第一方法

軸受外径がシリンダーの内径より若干大きめのラジアル軸受を、シリンダーにローターを嵌挿後シリンダーの両側から打ち込み、その内輪に、ローターを嵌め込んでローターを支承することを特徴とする揺動形アクチュエータの製造方法

(二) 被告第二方法

円柱体を、その左右に円柱と同径ないしほぼ同径で所定寸法よりやや大きいフランジを残して研削し、フランジの外側にフランジより小径の嵌装体を残して更に研削してローターシャフトを形成するとともに、外径が前記フランジの外径よりも若干大きく、内径が前記ローターシャフトと同径の円筒の一部を切り取ってベーンを形成し、このベーンをフランジ間に嵌装固定し、双方を研削して双方の径を同一にすることを特徴とする揺動形アクチュエータにおけるロータの製造方法

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 昭58-33405

<51>Int.Cl.3F 15 B 15/12 識別記号 庁内整理番号 6636-3H <24><44>公告 昭和58年(1983)7月19日

発明の数 1

<54>揺動形アクチユエータの製造方法

<21>特願 昭54-173513

<22>出願 昭54(1979)12月27日

<65>公開 昭56-94008

<43>昭56(1981)7月30日

<72>発明者 下田忍

立川市砂川町2959番地 株式会社トルカー内

<71>出願人 株式会社トルカー

立川市砂川町2959番地

<74>代理人弁理士 斉藤晴男

<57>特許請求の範囲

1 軸受外径がシリンダーの内径より若干大きめのラジアル軸受を、シリンダーのローターを嵌挿後シリンダーの両側から打ち込み、その内輪に、ローターを嵌め込んでローターを支承することを特徴とする揺動形アクチユエータの製造方法。

発明の詳細な説明

本発明は回転形往復運動をするシールレスタイプの揺動形アクチユエータの製造方法に関するものである。

従来のこの種アクチユエータにおいては、シリンダーとローターとの間でオイルリークが生ずることを防止するため、ローターのベーンにゴム、合成樹脂等のシールを取り付けていたが、シールの損耗が激しく、また摩擦等のために回転トルク発生効率上も問題があった。そこで、それに代わるものとして、オイルの粘性を利用してオイルリークを防ぐシールレスタイプのものが採用されるに至つた。ところで、このシールレスタイプの揺動形アクチユエータにあつては、オイルがその粘性によつてリークしない程度に、シリンダー内壁とローターとの間隙を微少(通常8ミクロン程度)に保持しなければならず、そのように組立てることは必ずしも容易ではない。

本発明はかかる点に鑑み、組立てに際しシリンダー壁とローターとの間の微少な間隙保持を確実に達成しうる揺動形アクチユエータの製造方法を提供することを目的とするものである。

本発明に係る揺動形アクチユエータの製造方法は、軸受外径がシリンダーの内径より若干大きめのラジアル軸受を、シリンダーにローターを嵌、後シリンダーの両側から打ち込み、その内輪にローターを嵌め込んでローターを支承することを特徴とするものである。図面は本発明に係る方法によつて製造した揺動形アクチユエータの構成を示すもので、そこにおいて1はシリンダー、2、3はシリンダー1の両端を塞ぐエンドカパーである。4はフランジで、その径をシリンダー1の内径より極く僅か小にする。5はフランジ4の外側に設けた嵌装体、6はローターシヤフトで、通常フランジ4、嵌装体5及びローターシヤフト6は一つの円柱体を研削することにより一体成型する。7はフランジ4間に挟まれ固定されたベーンであり、上記フランジ4、嵌装体5及びローターシヤフト6と一体となつてローターを構成する。8はフランジ4間に挾まれたストツパーであり、ストツパー8はシリンダー1の内壁に固定することなラジアル方向及びスラスト方向にフリーの状態にストツパー芯金9で支持する。10はラジアル軸受で、その外輪はシリンダー1の内壁に圧接し、その内輪に嵌装体5が圧入される。11、12は油圧ポートで、それぞれ油圧の出入を反覆する。11’、12’は油圧ポート11、12と対称的位置に形成した油圧ポートであり、ローターシヤフト6に油密室13と油密室13’とを連通する油道14、及びその回転に伴なつて新たに形成される油密室間を連通する油道14’を設けたときは不必要となる。このような構成のアクチユエータを組立てるには、先ずシリンダー1内ヘローターをストツパー8を挾んだまま挿入する。次に、ストツパー芯金9をストツパー8に合わせて挿し込み、シリンダー1に固定する。そして、ラジアル軸受をシリンダー1の両側から打ち込み、ローターを支承させてエンドカバー2、3を被着する。このように、フランジやエンドカバーあるいは軸受フレーム等を介することなく、ラジアル軸受10による二点支持のみによつてローターを支えることにより、ローター、即ち、フランジ4及びベーン7とシリンダー1の内壁との間にオイルリークが生じない程度の微少な間隙が設定保持されることになる。

この揺動形アクチユエータの動作について説明すれば、油圧ポート11及び12’から同時に油圧が供給されると、オイルが上側のストツパー8とベーン7間、及び下側のストツパー8'とベーン7'間に割つて入る。それによりベーン7は上側のストツパー8から離れ、またベーン7'は下側のストツパー8'から離れ、それぞれ第2図において反時計方向に回転し、ローターシヤフト6を駆動する。それにつれて、ベーン7と下側のストツパー8'との間に満たされていたオイルは油圧ポート11’から、またベーン7'と上側のストツパー8との間に満たされていたオイルは油圧ポート12からそれぞれ押し出される。そして、ベーン7が下側のストツパー8'に、またベーン7'が上側のストツパー8に当接するまでローターシヤフト6は回転し、回転停止後油圧ポート11’及び12から油圧が供給されると今度は時計方向に反転し、以後正反回転をくり返す。ローターシヤフト6に油道14、14’を設けるときは、油圧ポート11からストツパー8、ベーン7間にオイルが供給されると、そのオイルはベーン7をストツパー8から引き離すよう作用するとともに、油道14を通つてストツパー8'、ベーン7'間にも割り入り、同様に作用する。そして、油密室13’内にあつたオイルは油道14’を通つて油密室13に入り、油密室13内にあつたオイルとともに油圧ポート12から出ていく。かくしてローターシヤフト6が回転し、また、オイルが逆に移動することによつて反転する。

本発明は上記した通りであり、ローターがシリンダー内に直接打ち込まれたラジアル軸受によつてのみ支承されることにより、ローターとシリンダー内壁との間の微少な間隙保持が達成され、オイルの内部リークがなく、回転トルクの発生効率が向上し、円滑な回転形往復運動が得られる効果がある。

図面の簡単な説明

第1図は本発明に係る方法によつて製造した揺動形アクチユエータの構成を示す図、第2図は第1図におけるA-A線断面図(但し、切截部を補充してある。)である。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許審判請求公告

<12>特許審判請求公告(H) 769

<51>Int.Cl.3F 15 B 15/12 識別記号 庁内整理番号 9026-3H

特許第1458677号(特公昭58-25882号)

に関する訂正の審判請求事件

<24><45>公告 平5.9.27 審判請求 平4.2.29 審判番号 平4-3398

<70>請求人 豊田油気株式会社 愛知県豊由市寿町6丁目1番地

<74>代理人 弁理士 齋藤晴男

<54>揺動形アクチユエータにおけるローターの製造方法

審判請求の要旨

本件審判請求の要旨は、特許第1458677号発明の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち以下のとおりに訂正しようとするものである。

<1> 「特許請求の範囲第1項に「このローターシヤフトを同径の内径を持つ円筒の一部を切り取つてベーンを形成し、このベーンをフランジ間に嵌装固定する」とあるを、「外径が前記フランジの外径よりも若干大きく、内径が前記ローターシヤフトと同径の円筒の一部を切り取つてベーンを形成し、このベーンをフランジ間に嵌装固定した後研削してベーンとフランジの径を同一にする」と訂正することにより、その範囲を減縮する。

<2> 「特許請求の範囲第2項」を削除する。

<3> 「発明の詳細な説明」の欄につき下記の訂正をすることにより、上記減縮した「特許請求の範囲」の記載に符合させる。

a 願書添付明細書第3頁第4行乃至第7行に「このローターシヤフトと同径の…嵌装固定する」とあるを削除し、その部分に「外径が前記フランジの外径よりも若干大きく、内径が前記ローターシヤフトと同径の円筒の一部を切り取つてベーンを形成し、このベーンをフランジ間に嵌装固定した後研削してベーンとフランジの径を同一にする」なる文章を挿入する。

b 同第3頁第7行乃至第12行に、「そして、フランジ間…方法が好ましい。」とあるを削除する。

c 同第3頁第19行乃至第10行に「5は円筒で、」とあるを、「5は内径がフランジ2、2間のローターシヤフト4と同径で、外径がフランジ2、2の外径よりも若干大きな同径で、」と訂正する。

d 同第4頁第1行乃至第10行に「円筒5の内径はフランジ2、2間の…フランジ2、2とを同径にすることができる。」とあるを削除し、そこに、「このようにして製造したベーン6をフランジ2、2間に嵌装固定すると、ベーン6がフランジ2、2より径の差分はみ出るから、その部分を研削することによつてベーン6とフランジ2、2とを簡単且つ確実に同径にすることができる。」なる文章を挿入する。

訂正明細書

<54>揺動形アクチユエータにおけるローターの製造方法

<57>特許請求の範囲

1 円柱体を、その左右に円柱と同径ないしほぼ同径のフランジを残して研削し、フランジの外側にフランジより小径の嵌装体を残して更に研削してローターシヤフトを形成するとともに、外径が前記フランジの外径よりも若干大きく、内径が前記ローターシヤフトと同径の円筒の一部を切り取つてベーンを形成し、このベーンをフランジ間に嵌装固定した後研削してベーンとフランジの径を同一にすることを特徴とする揺動形アクチユエータにおけるローターの製造方法。

発明の詳細な説明

本発明は、シリンダー内に嵌装された、フランジ間にベーンを定着したローターを油圧で正反回転駆動し、その回転角度を、ベーンが当接するフランジ間に挾設したストツパーで制御するようにしたシールレスタイプの揺動形アクチユエータにおけるローターの製造方法に関するものである。

この種アクチユエークにおいては、ベーンにシールを取付けることなく、オイルの粘性によつてオイルリークが生じない程度に、シリンダー壁とローターとの間隙を最小に保持する必要がある。勿論両者が接触するようなことがあつてはならない。そのため、各構成部品の寸法精度、組立精度にはミクロン単位の精密さが要求される。

本発明はかかる要求を満たす従来にない揺動形アクチユエータにおけるローターの製造方法を提供することを目的とするものである。

本発明に係る揺動形アクチユエータにおけるローターの製造方法は、円柱体を、その左右に円柱と同径ないしほぼのフランジを残して研削し、フランジの外側にフランジより小径の嵌装体を残して更に研削してローターシヤフトを形成するとともに、外径が前記フランジの外径よりも若干大きく、内径が前記ローターシヤフトと同径の円筒の一部を切り取つてベーンを形成し、このベーンをフランジ間に嵌装固定した後研削してベーンとフランジの径を同一にすることを特徴とするものである。

本発明を図面について説明すれば、1は円柱体であり、その左右に円柱と同径ないしほぼ同径のフランジ2、2を残して研削する。そして、フランジ2、2の外側にフランジより小径の嵌装体3、3を残して更に研削してローターシヤフト4を形成する。この嵌装体3、3には後述するようにラジアル軸受が嵌め込まれる。5は内経がフランジ2、2間のローターシヤフト4と同径で、外径がフランジ2、2の外径よりも若干大きな円筒で、その一部を切り取つてベーン6を形成する(第2図参照)。このようにして製造したベーン6をフランジ2、2間に嵌装固定すると、ベーン6がフランジ2、2より径の差分はみ出るから、その部分を研削することによつてベーン6とフランジ2、2とを簡単且つ確実に同径にすることができる。ベーン6にはフランジ2、2間に固定するためのボルト孔6aを穿ち、また通常、油圧が確実に作用するよう油圧ポート当接部に切欠を設けることが望ましい。このベーン6をフランジ2、2間に固定してローターとなす。第3図及び第4図はこのローターを組み入れた揺動形アクチユエータを示している。そこにおいて7はシリンダー、8、9はシリンダー7の両端を塞ぐエンドカバー、10はエンドカバー8、9をシリンダーに固定するボルトである。11はラジアル軸受でシリンダー7の両端から打ち込み、ローターの嵌装体3に嵌め込んでローターを支承し、ローターとシリンダー壁、即ち、フランジ2、2とシリンダー壁との間隙を通常8ミクロン程度に保持する。12はフランジ2、2間に介装したストツパーで、その動きを規制するストツパー芯金13が嵌入する孔14を十分広く取り、ストツパー12がラジアル方向及びスラスト方向ヘフリーとなるようにする。15、16は油圧ポートで、それぞれ油圧の出入を反覆する。

この揺動形アクチユエータの作動を説明すれば、油圧ポート15及び16’から同時に油圧が供給されると、オイルが上側のストツパー12とベーン6間、及び下側のストツパー12とベーン6’間に割つて入る。それによりベーン6は上側のストツパー12から離れ、またベーン6’は下側のストツパー12から離れ、それぞれ第4図において反時計方向に回転し、ローターシヤフト4を駆動する。それにつれて、ベーン6と下側のストツパー12との間に満たされていたオイルは油圧ポート15’から、またベーン6’と上側のストツパー12との間に満たされていたオイルは油圧ポート16からそれぞれ押し出される。そして、ベーン6が下側のストツパー12に、またベーン6’が上側のストツパー12に当接するまでローターシヤフト4は回転し、回転停止後油圧ポート15’及び16から油圧が供給されると今度は時計方向に反転し、以後正反回転をくり返す。

本発明は上記した通りであるからローターの製造が容易であるだけでなく、ミクロン単位の精密さが要求されるアクチユエータにおいて各構成部品の寸法精度、直角度等につき満足いくものが得られる効果がある。

図面の簡単な説明

第1図はローターの製造過程を示す図、第2図はベーンの製造方法を示す図、第3図は本発明に係る方法により製造したローターを組み入れた揺動形アクチユエータの構成を示す図、第4図は第3図におけるA-A線断面図(但し、切截部を補充してある。)である。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

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特許公報

<省略>

特許審判請求公告

<省略>

<省略>

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